実験計画法とは何か?初心者向け【エクセルテンプレート】前編
品質管理の重要課題「実験計画法」の基本を数式無しで話しています。エクセルテンプレートを作ったので、それにそって説明してますので実務でどうやるのかが理解出来ます。また最近のテクノロジーを使った「シュミレーションを使った実験計画法」もご紹介します。
(動画時間:8:15)
ダウンロード ←これをクリックして「実験計画法(3因子2水準)」エクセルテンプレートをダウンロード出来ます。
実験計画法の本質
こんにちは、リーンシグマ、ブラックベルトのマイク根上です。業務改善コンサルをしています。
今日はこの動画リクエストからです。
「統計学、実験計画法など品質絡みの基礎知識向上に役立つ動画を期待しています!」
yamatoさん、リクエストありがとうございました。実は統計の話題は久しぶりになってしまってすみません。今回の議題は「実験計画法」です。英語で「Design of Experiments」ですので「DOE」とも言われます。
品質管理や品質工学を学んでいる人にとってこの実験計画法ほど分かりにくい科目は無いですよね。「実験計画法は試験数を減らす為にやるんでしょ?」とか「重回帰分析とどう違うの?」という疑問が出てきます。
実験計画法の本質は「問題を解決するためのデータをどの様に集めるか、その計画の仕方」なのです。僕のマスターブラックベルトの先生の津吉政広さんの記事でこう書かれています。
「回帰分析を使って数値モデルを作るだけなら、既存のデータを使えば十分ではないのか?」という疑問があると思いますが、正確な数値モデルを作るためには、 “育ちの良い”データセットが必要です。“育ちの良い”データセットを得るために実験計画法が使われます。
こう考えるとこの手法の名前がなぜ「実験計画法」なのかが分かりますね。
実験計画法はどの分野で使われているのか?
次の素朴な疑問で、この実験計画法はどういう時に使うのでしょうか?
実験計画法は農業分野から発展していき、今では医学、工学、社会調査など、また最近ではマーケティングでも使われます。
つまり、データを活用する分野では大変有効な手段なのです。
実験計画法の手順
次に実験計画法の手順を見ていきましょう。これでもっと具体的にご理解できると思います。
今回この実験計画法のエクセルテンプレートを作りました。しかし、前述したように実験計画法は応用範囲が広いので、このテンプレートでは後で詳しく話しますが、因子が3つと水準が2つまでの実験に使えます。
課題を明確にする。
そのテンプレートの右側に実験計画法の手順が書いてあります(上図参照)。最初が一番重要で、「課題を明確にする。(何が問題で何を解決したいのか?)」これを最初に明確化する必要があります。
今回は例として「水を速く沸騰させる方法を見つける」としました(上図セルS5参照)。その理由は、次回の動画で実際にやれるものを選びたかった為です。
課題の品質特性を決める。
次のステップが「課題の品質特性を決める。」です。例えば「商品の品質を上げる」を課題にした時にあいまい過ぎて実験を計画出来ません。そこで品質が高いとはどういうことかを明確にするのです。
今回の僕の例では「速く沸騰した」という定義を具体的にして「水を5分沸かした上昇温度」としました(上図セルS8参照)。
実験する三つの因子とその各水準を定義する
次のステップが難しいところで、「実験する三つの因子とその各水準を定義する」です。この因子と水準については以前の分散分析の動画で詳しく説明しています。⇒「分散分析とは?わかりやすく説明します。【エクセルのデータ分析ツール】前編:結果を出すところまで」
今回の例の水の沸騰に強い影響を与える要因は何でしょう?今回は「鍋の材質」、「加塩の有無」、「蓋の有無」としました(上図、範囲T13:T15参照)。これを実験計画法では「因子」と言います。
各因子の条件は何でしょう?それを「水準」と言います。ここでは「ステンレス、鉄」、「塩無、塩有」、「蓋無、蓋有」みたいな感じです(上図、範囲U13:V15参照)。
この因子と水準を入力するとその全組合せが最初の表に出てきます(下図参照)。全部で8つの実験をする事になり、これが「実験計画」になるわけです。
今回は僕の思い付きで因子と水準を考えてしまいましたが、通常実験をするのに時間もコストも相当掛かりますので、ここで的外れな因子と水準にしてしまうと全て無駄になります。
ですから、実験後に出てきたデータを解析しそれを基に行動計画を作る事を視野に入れてこの因子と水準をよく考える必要があります。それをするのに特性要因図を使って分析するのがよく行われます。⇒「特性要因図となぜなぜ分析の4ステップの使い方【エクセルテンプレート】」
実験計画表の「実施の順番」列の順番で実験を実施する。
3因子、2水準の8つの実験をし、その結果が出たらその結果を特性値と言いますが、それを「第一実験」の列に入力する(上図、範囲J5:J12参照)と下に分析結果が自動で出てきます。この分析の見方については次回の動画でまた話します。
このテンプレートは同じ実験を5回まで計算に入れる事も可能です。そうするとより精度が上がります。
その左にAxB、AxC、BxCの列があります(上図範囲F4:I12参照)。これは因子AとB、因子AとC、そして因子BとCの交互作用を計算する為の列です。交互作用とは複数の因子が合わさって良くも悪くも別の影響が出る事ですね。
スイカに塩を振って食べるともっと美味しくなるみたいなやつです。このテンプレートではその交互作用の分析まで出来ます。
直交表で実験の回数を減らす
ここまで見て頂いて「あれっ、実験計画法って、実験回数を減らせるんじゃなかったの?」と思われた方もいたでしょう。それも出来ます。それには直交表を使うのです。今回はあまり詳しい話はしませんが、概念だけはしっかり覚えて下さい。
上図がL8直交表です。さっきの実験計画表はこのL8直交表から作りました。そこでは実験回数が8回でしたね。実はこの総当たりでやる実験回数は因子と水準の数から水準数の因子数乗で求められます。
2の3乗は8ですから実験回数は8回になるのです。これが4因子でしたら2の4乗で16回、6因子なら2の6条で64回です!それがこのL8直交表を使うとどちらも8回で済んでしまうのです!
先ほどのテンプレートの実験計画表では3つの因子の他に相互作用を列に入れましたが、因子を増やしたら相互作用の代わりに他の因子を入れるのです(下図参照)。
しかしお分かりの様に相互作用を無視しますので、あらかじめ相互作用が無いのが分かっている時しか使えません。
直交表はL8直交表の他にL9、L12、などもっと種類が沢山あり、因子や水準数によって使い分けます。
これで実験を計画して結果を分析するとこで統計的に総当たりでやるのと同じ解析が出来るのです。なんか夢のような話ですが、これが統計の力なのです。
シミュレーションを使った実験計画法
しかし直交表は沢山種類があるのでそれを使いこなすまでが難しいです。実は最近のテクノロジーでもっと簡単に低コストで実験計画法が出来ます。それは「シュミレーションを使った実験計画法」です。これは先ほどの津吉政広さんのブログで紹介されています。
「設計したものをコンピュータ上でシュミレーションすることが普通になってきています。シュミレーションの精度も高く、実務では全く問題のないレベルに達しています。そのため実験計画は、現物ではなく、今ではシュミレーションを使って行っています。」
テクノロジーは常に進化していますので、常に勉強ですね。先ほどの津吉さんの記事へのリンクをクリックしてぜひご覧下さい。今回は実験計画法の基本をご紹介しました。次回の動画で実験計画法の解析の実演をテンプレートを使ってお見せします。
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